2021年11月29日月曜日

源氏物語のすすめ - 弐 -

- 壱 - の続き

   で、弘徽殿の女御に3年遅れて桐壺の更衣も男児を産む訳ですが、心労からくる体調不良が祟って産後すぐに桐壺の更衣は亡くなってしまうんです。  この桐壺の更衣が産んだ男児というのが源氏物語の主人公の光源氏なんですね。  帝の血筋を絶やさぬ為にある後宮という所にいた女性が産んだ子供なのですから、光源氏は当然後の帝候補、つまり親王と呼ばれる立場となる訳ですが、自分より3年前に既に帝の血を引く男児は産まれていて、しかもその母親は右大臣家の出身という麗しい家柄。  しかも自身の母親は亡くなってしまって育ててくれる人もいなくなったので後宮に置いておかれる訳にもいかず母親の実家に預けられるんですが、母親の後ろ楯である中納言も亡くなっているんで光源氏は赤ちゃんの頃はお祖母さんに育てられるんです。  この時点で親王、帝の後継者争いという面ではもう敗北なんですよ。宮中にすら居られないんですから。

 ところがここには、桐壺の更衣を寵愛した帝という方がいる訳です。  他の女御、更衣を蔑ろにする程に桐壺の更衣を寵愛した帝は、その忘れ形見である光源氏の事もまた、可愛くて可愛くて仕方がない。  で、とうとう帝は光源氏を再び宮中に呼び寄せて、自らの手元に置いて自分で育てる事にしちゃうんです。  これは異例中の異例なんですよ。  気が気でないのは弘徽殿の女御ですよね。  桐壺の更衣が亡くなって今度こそ寵愛が自分に向くかと思ったら、桐壺の更衣の産んだ子を帝自ら育てだしたんですから、自分どころか下手すりゃ我が子の立場だって危ないんじゃないかと思ってしまいますよね。  当時の宮中には春宮(とうぐうと読みます。ナゼだw)という、次の帝に定められた方がいて、これが帝の弟さんになっているんですよ。  丁度今、現実の世界でも天皇陛下の弟君である秋篠宮様が後嗣という次の天皇と定められたお立場ですよね。同じ様な事と考えて良いと思います。  で、この春宮である帝の弟君という方が病弱という事もあって、弘徽殿の女御は春宮の座を我が子に移す様に帝に訴えるという事をするんです。  結局帝の在位中に弟君が先に亡くなってしまったので、弘徽殿の女御が産んだ子が春宮になるんですけどね。  さて、となると光源氏ですよね。  やっぱりお世継ぎ争いでは負け確ですよね。  でも帝はこの子が可愛くて可愛くて仕方がないんです。  どうしても幸せになってほしい。  そこで帝は光源氏が14歳となって元服となった時点で、光源氏を親王から臣下に落とすという事をするんです。  帝の後継者候補として宮中にいるのではなく、宮中でお仕事をする、現在で言うところの官僚みたいな立場ですよね。  で、それと同時に光源氏を左大臣の家に婿入りさせるんですよ。  左大臣といったら、右大臣より上の地位なんですね。  帝が頂点だとすると、No.2。  そこの家の娘さんと結婚させちゃうの。  という事は、親王としては勝ち目がなくても臣下という宮中務めの人としては最強ですよね。血筋も家柄も。帝の実の子で尚且つ左大臣家のお婿さん。  もう一生安泰と言っても過言でない立場というのを、光源氏は帝によって与えられるんです。  もうぶっちゃけ仕事なんてろくにしなくたって良いみたいな状態なんですが、何しろ見目麗しい美少年の上、帝の手元で英才教育を受け、また本人にも才覚というものがあった光源氏という人、歌を詠んでも舞を舞っても笛を吹いても琴を奏でても超一流。  だから宮中行事では引っ張りだこなの。もう宮中のスーパースターなんですよ。何かあるとすぐに「それは源氏の君にお願いしないと」ってなっちゃう。  こんな出来すぎたキャラクターなんですが、でも待って。  元服と同時に婿入りしてるという事はですよ、この人恋愛経験というものが全く無いまま所帯持ちになってるんですよね。  この人がこの後どの様な事になって、色恋沙汰に耽っていく人生となっていくのでしょう。  ちょっとだけ話すと、この宮中のスーパースターさん、実は夫婦関係はギクシャクしてるんです。  だってね、よく考えてみると、光源氏と結婚した左大臣の娘の葵の上(あおいのうえ)って、家柄からしたら女御になれる筈じゃないですか。  帝の御寵愛を受けられるという、当時の女性達の夢を叶えられる立場だと思ってたら、いきなり帝の落とし子を押し付けられたんだから、面白い訳がないんですよ。  ところでね、この葵の上という方にはお兄さんがいるんですよ。葵の上が光源氏の二つ歳上だから、光源氏とは4つか5つ離れてると思うんですけど。  このお兄さんが、もうね…  さてさて、ここから先は読んでみてのお楽しみ。  一つだけ見所を教えとくと、オカルティックな要素もあったりするんですよ。  帝の弟君が病弱な方で早くに亡くなってしまうという事を書きましたが、それで未亡人となってしまう元春宮の奥様、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)という人物が、まあとんでもない方なんです。もう影の主役と呼んでも過言でない。源氏物語というお話をグワッと転換させる強烈なキャラクターなんです。  で、俺のお勧めは橋本治さんの窯変源氏物語で、これはかなり分かりやすく書かれているものなんですけど、もう一冊、源氏物語図鑑も持っておくと更に分かりやすくなると思います。  当時の寝殿造りの建物やお庭の構造や、家内の調度品の形や用途、着物の色柄だったり宮中の冠位の説明だったり各キャラクターの血縁関係だったり、文章だけでは分かりにくい物も図や写真で見られるので、あると凄く便利です。  長々と書いてきましたが長大なドラマのほんの頭の部分しかお教えしてませんからね。  まだまだ面白いエピソードや面白いキャラクターが幾らでも出てきます。  もう随分前に出版された本なので、古本を探せばかなり安価に手に入れる事が出来ると思います。  勿論お話としても面白いし、読めば「あ、俺、源氏物語全部読みましたよ。」と人に言える人生を手に入れる事ができちゃいますよ。  読もう、源氏物語。  おしまい。