2021年12月13日月曜日

しょうちゃん part.1

  俺が通っていた小学校の同学年に、しょうちゃんという男の子がいた。  今で言うところの「発達障害」というヤツなのだろうが、俺の子供時代にはもっと残酷に「知恵遅れ」なんて言い方がされていた。  しょうちゃんは身体の大きさは俺らと変わらなかったけど、頭と心は4~5歳といったところで、だから勉強も運動も俺らと同じ様にはできない子だった。  でも、そうは言ってもしょうちゃんは明るくて無邪気な子だったので、別に虐められたりする事もなく、どちらかというと学年のマスコット的な存在としてみんなに可愛がられていたのね。  多分二年生の時なんだけど、学校の近くにわりと大きな公園があって、そこには芝生に覆われた小高い丘が作られていて、その丘の1面の斜面がコンクリートでツルツルの大きな滑り台になってて、その下は砂場になってて、だから滑り台を滑り降りると砂場にザシュッって降りる事になるんだけど、そこって雨が降ると滑り台の部分は雨水を吸収しないからそのまま砂場に流れ落ちちゃって、だから砂場の部分が大きな水溜まりになっちゃうの。  雨上がりの日の放課後、その公園に寄ったらしょうちゃんが水溜まりになった砂場に向かって滑り台を滑り降りてたの。  ランドセルをソリみたいにお尻に敷いて。  勿論水溜まりにバシャーンって突っ込んで行っててランドセルはビッショビショ。  当然中身の教科書やノートも泥水まみれになった筈なんだけど、しょうちゃんはキャッキャとはしゃぎながら繰り返し滑り台を滑り降りてるの。  俺達は「しょうがないなぁ」って眺めてるしかなかった。あんまり楽しそうなんだもの。  俺は3~4年生の時しょうちゃんと同じクラスだったんだけど、その学年になると算数には掛け算、割り算が出てくるよね。  しょうちゃんは算数のテストを×や÷の所を鉛筆でグリグリと塗り潰して、その上に+や―を書いて答えるというトンチの効いた事をして、でもそれも半分ぐらい間違ってるの。  しょうちゃんって、そんな子だった。  で、五年生になって俺はしょうちゃんと違うクラスになっちゃったんだけど、ある日学校に行ったら学年中がなんかザワザワしてたのね。  どうしたの?って聞いたら、「しょうちゃんの家が火事になった」って。  これはあくまで小学生の間での噂なので真偽の程は定かでない事をご了承いただきたいんだけど。  しょうちゃんの家は母子家庭で、で、しょうちゃんには同学年の妹がいて、当時は同学年なんだから当然双子なんだと思ってたんだけど今考えたら二人は全然似てなかったんでその辺どうなのか分からないんだけど、兎に角しょうちゃんのお母さんは二人の子供を女手一つで育てていて、だから遅くまで帰ってこないらしくて、それでお腹がへったしょうちゃんと妹はパンを焼く事にしたんだって。  なんだけど何故か二人はパンをフライパンで焼く事にしたらしいの。  で、アツアツになったパンを手で持てなくて、ティッシュを持った手でパンを取ろうとして引火したらしい。  繰り返し言うけど真偽の程は怪しいんだけど。  幸いというか、しょうちゃんと妹は怪我とかは全然しなかったんだけど、家財道具は焼けてしまったんで学校のみんなでカンパしてねって話になったの。  俺はその時までカンパという言葉を知らなくて、しょうちゃんのおかげ?で一つ言葉を覚えたの。

 それからしばらくして、学校に行ったら、また学年全体がザワザワしてるのよ。  で、どうしたの?って聞いてみたの、また。

 part.2 へ続く