2021年12月27日月曜日

しょうちゃん part.2

  part.1 の続き

 何日か前から、しょうちゃんも妹も学校に来なくなってたんだって、二人とも。  で、同じクラスの子達数人と担任の先生とでしょうちゃんの家に行ってみたんだけど、チャイムを押しても反応がなくて、管理人を呼んで鍵を開けてもらったら、もぬけの殻だったんだって。  それを見た担任の先生が「ああ、これは夜逃げだねぇ。」と言ったんだそうな。  で、その翌日、学年中が「しょうちゃんが夜逃げした!」っつってザワザワしてたって訳だったの。  ただでさえ母子家庭で二人の子供を育てていて、しかもその一人は発達障害で、遅くまで働いて大変だったところに火事ときてしまって、耐えきれなかったみたいで。  恥ずかしながら俺は、夜逃げという言葉もコレで初めて知ったんです。しょうちゃんのおかげ?で、また新しい言葉を覚えた。  こうして俺達のマスコット、しょうちゃんは俺達の前からいなくなってしまったんだ。  それからしばらく時が流れて、俺達は六年生になって、小学六年生といったら最大のイベントは修学旅行。  札幌の小学校の修学旅行といったら行き先はだいたい洞爺湖温泉なの。  有珠山という活火山があって、昔その有珠山が噴火した時に隆起した昭和新山という山があったり、そういうのを見学してから洞爺湖温泉に泊まるのね。  勿論女湯のぞきにも無事失敗して、一泊した翌朝、洞爺湖畔の大きな公園的なスペースに整列させられて、ラジオ体操させられたのね。  これもやっぱり札幌の修学旅行の定番なので、俺らと同日に修学旅行の小学校の生徒達もいる中ラジオ体操をし終わったら、なんと信じられない事に先生が「じゃあホテルまでジョギングで戻りましょう。」って。  そりゃ修学旅行の2日目なんてバスに揺られて帰るだけだから朝のうちに体を動かしておくのは利にかなってるんだけど、生意気盛りの六年生、「えぇ~」なんて言ってみたものの、所詮は小学生なのでおとなしく走ってホテルに戻る事になり。  俺は六年生の時1組だったので、整列した時は最初に並んだのでホテルに戻る時は逆に最後尾になって、みんなの後からタラタラと走ってついていったの。  そしたらなんか、前を走っている同じ学校の生徒達がザワザワしだしたの。  え、ナニナニどうしたの?って聞いたら、前の子らがみんな「しょうちゃんがいる、しょうちゃんがいる。」って言ってる訳。  え、何処に?ってみんなの指差す方を見たら、確かにいるんだよ、しょうちゃんが。  どうやら夜逃げしたといっても札幌市内にはいたみたいで、別の学校に転入したのが、たまたま俺らと全く同じ日に修学旅行で洞爺湖に来てたんだ。  で、俺らと同じ様に整列させられて、ラジオ体操させられたっていう。  で、俺もみんなも「え、あ、ホントだ、しょうちゃ~ん!」ってなったんだけど、勿論しょうちゃんの周りに群がる訳にもいかず、みんなでしょうちゃんに手を振りながらホテルに向かって駆け抜けていくだけっていうねw  「バイバ~イ!」って言って。  しょうちゃんの方もラジオ体操してる最中なので手を振り返す事もできないんだけど、俺達の知っているしょうちゃんよりちょっと背が伸びたものの、変わらない笑顔を俺達に向けてくれていた。  ぶっちゃけ小学校の修学旅行の内容なんて殆ど覚えてないんだけど、あのしょうちゃんの姿だけは鮮明に覚えている。  そしてホテルに走り着いた俺達みんなが「しょうちゃん元気にしてたんだ、良かった。」という気持ちになったあの感じも、きっと一生忘れないんだろう。  おしまい。

2021年12月13日月曜日

しょうちゃん part.1

  俺が通っていた小学校の同学年に、しょうちゃんという男の子がいた。  今で言うところの「発達障害」というヤツなのだろうが、俺の子供時代にはもっと残酷に「知恵遅れ」なんて言い方がされていた。  しょうちゃんは身体の大きさは俺らと変わらなかったけど、頭と心は4~5歳といったところで、だから勉強も運動も俺らと同じ様にはできない子だった。  でも、そうは言ってもしょうちゃんは明るくて無邪気な子だったので、別に虐められたりする事もなく、どちらかというと学年のマスコット的な存在としてみんなに可愛がられていたのね。  多分二年生の時なんだけど、学校の近くにわりと大きな公園があって、そこには芝生に覆われた小高い丘が作られていて、その丘の1面の斜面がコンクリートでツルツルの大きな滑り台になってて、その下は砂場になってて、だから滑り台を滑り降りると砂場にザシュッって降りる事になるんだけど、そこって雨が降ると滑り台の部分は雨水を吸収しないからそのまま砂場に流れ落ちちゃって、だから砂場の部分が大きな水溜まりになっちゃうの。  雨上がりの日の放課後、その公園に寄ったらしょうちゃんが水溜まりになった砂場に向かって滑り台を滑り降りてたの。  ランドセルをソリみたいにお尻に敷いて。  勿論水溜まりにバシャーンって突っ込んで行っててランドセルはビッショビショ。  当然中身の教科書やノートも泥水まみれになった筈なんだけど、しょうちゃんはキャッキャとはしゃぎながら繰り返し滑り台を滑り降りてるの。  俺達は「しょうがないなぁ」って眺めてるしかなかった。あんまり楽しそうなんだもの。  俺は3~4年生の時しょうちゃんと同じクラスだったんだけど、その学年になると算数には掛け算、割り算が出てくるよね。  しょうちゃんは算数のテストを×や÷の所を鉛筆でグリグリと塗り潰して、その上に+や―を書いて答えるというトンチの効いた事をして、でもそれも半分ぐらい間違ってるの。  しょうちゃんって、そんな子だった。  で、五年生になって俺はしょうちゃんと違うクラスになっちゃったんだけど、ある日学校に行ったら学年中がなんかザワザワしてたのね。  どうしたの?って聞いたら、「しょうちゃんの家が火事になった」って。  これはあくまで小学生の間での噂なので真偽の程は定かでない事をご了承いただきたいんだけど。  しょうちゃんの家は母子家庭で、で、しょうちゃんには同学年の妹がいて、当時は同学年なんだから当然双子なんだと思ってたんだけど今考えたら二人は全然似てなかったんでその辺どうなのか分からないんだけど、兎に角しょうちゃんのお母さんは二人の子供を女手一つで育てていて、だから遅くまで帰ってこないらしくて、それでお腹がへったしょうちゃんと妹はパンを焼く事にしたんだって。  なんだけど何故か二人はパンをフライパンで焼く事にしたらしいの。  で、アツアツになったパンを手で持てなくて、ティッシュを持った手でパンを取ろうとして引火したらしい。  繰り返し言うけど真偽の程は怪しいんだけど。  幸いというか、しょうちゃんと妹は怪我とかは全然しなかったんだけど、家財道具は焼けてしまったんで学校のみんなでカンパしてねって話になったの。  俺はその時までカンパという言葉を知らなくて、しょうちゃんのおかげ?で一つ言葉を覚えたの。

 それからしばらくして、学校に行ったら、また学年全体がザワザワしてるのよ。  で、どうしたの?って聞いてみたの、また。

 part.2 へ続く